暁に祈れ

『A Prayer Before Dawn』
 


※『暁に祈れ』のネタバレを一部含みます
先日、友人を映画『暁に祈れ(公式サイトに飛びます)』に誘ったところ、東京駅内の東京ステーションギャラリーで開催中「吉村芳生 超絶技巧を超えて」も行きましょうよと提案を受けたので行ってきました。

「吉村芳生〜」の方は写真好きの友人が
「対象の表面性のみを描写するとは?」「紙質ごとの作品の印象の違い」などを勉強するために行きたかったそうなのですが、これがまた面白い美術展でした。
 
美術手帖より引用
写真左側にある自画像、なんとこれ新聞の文面も手書きなのです(右側の自画像群は通常の新聞上に描いたもの)。チラシを撮ったので拡大すれば手書きであることが分かるかもしれません。
 
彼の作品の特徴は、題材に日常風景を用いていることですね。
靴やジーパンなどなんら珍しくないものだからこそその精密さに舌を巻くばかりです。
完成までに9年の歳月を要した365日分の自画像や17メートルにもおよぶ金網のドローイングなど観る者を圧倒する力があります。
また、版にかけたものや写真を書き起こす、つまり「何かを介在してから創作する(しかも写実的に!)」という特徴も見て取れました。これは文明機器への挑戦でしょうか?彼のみぞ知るところです。
まあ一番嬉しいのは会場がすいているいる点ですかね笑


後は12月8日から上映開始の『暁に祈れ』。行こう行こうと思っていた内に関東での上映館がヒューマントラスト有楽町だけになってしまいました。東京駅から歩いて行ける距離なので良しとしましょう。
『暁に祈れ』はビリー・ムーアの自伝『A Prayer Before Dawn』を原作にした作品。
〈あらすじ〉
イギリス人ボクサーのビリーは、人生を再スタートさせるべくタイへ向かうものの薬物中毒で刑務所に収監される。殺人、汚職などが平然と行われる劣悪な環境は、現実逃避をするためますますドラッグへ溺れさせるのだった。
ドラッグ欲しさに囚人をリンチし希望を失いかけた彼は、ある日所内のムエタイチームの練習を目にする。最初は門前払いを受けるものの熱心に練習へ打ち込む姿にチームメイト達はビリーを認めるようになる。再び闘志を取り戻したビリーだが、彼の体はすでに酒とドラッグに蝕まれており‥‥

ズバリ「まるで自分が刑務所にいるかのような体験」が鑑賞ポイントです。
そのために
・言葉の通じない主人公の疎外感を表すためにタイ語が字幕されない
・地肌よりも刺青の面積の多いおじさんたちはすべて元囚人
・基本セリフは怒鳴り声、もしくは彼岸島のような息遣い
・しゃがんで入らなければならない広さの独房、人が多すぎて両肩を地面につけて寝られない雑居房など閉塞感のある空間
・ビリーの視点からみるカメラワーク
などの演出がされています。

冒頭ドラッグを吸って試合に臨み敗北してしまうドン底シーンから始まるのですが
そこからバイオレンスの嵐、極悪刑務所ですからね。もっと下があったと。
とにかく暴力、暴力で鑑賞に体力を使いますが熱量のある良作でした。鑑賞中の疲労感は、最近の作品だと『セッション(公式サイト)』のイメージに近いですね。
ただ、前述の「タイ語が訳されない」、冗長な表現が続くなど盛り上がりに欠ける、自業自得の主人公に感情移入できないという点もあるので好みが分かれるかもしれません。アロノフスキーの『レスラー』が好きな方ははまると思います。
ちなみに個人的最近の刑務所映画で薦めやすいのは『ブラッド・スローン(公式サイト)』(2017)。気になる方は是非。

話を戻すと『暁に祈れ』という邦題も格好いいですよね。作中何度かビリーが鉄格子から外を眺める場面があるのですがまさに題名にぴったりです。映画に限らずクールな邦題の創作物は印象に残りますねえ。
A Hard Day's Night→ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!
邦題‥‥‥

p.s. 次回予告(予定は未定)
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